ファクタリングを利用すると、売掛金を早期に現金化できる一方で、「どの勘定科目を使えばよいのか」「借入金として処理してよいのか」といった会計処理の悩みが生じます。
日本の会計実務では、買取型ファクタリングの場合、「未収入金」や「売上債権売却損」など専用の勘定科目を用いる処理が一般的とされていますが、保証型や国際財務報告基準(IFRS)では考え方が異なります。
この記事では、経理担当者・中小企業経営者向けに、取引パターン別の仕訳と勘定科目の選び方を基礎から整理します。
ファクタリング会計処理の全体像
ファクタリングは、売掛金などの売上債権をファクタリング会社に譲渡し、資金を受け取る仕組みです。日本では主に買取型と保証型の2つの形態が広く利用されており、それぞれで会計処理の考え方が異なります。ここでは、両者の基本的な違いと、国際基準との比較を解説します。
買取型と保証型の基本的な違い
日本基準における一般的な解説では、買取型ファクタリングは「売掛債権の譲渡」として処理し、保証型ファクタリングは「保証料の支払い」として処理するのが基本とされています。
買取型では、売掛金をファクタリング会社に売却することで、企業の貸借対照表から売掛金が消える(オフバランス化される)のが特徴です。一方、保証型では売掛金は企業が保有したまま、取引先の倒産などによる回収不能リスクのみをファクタリング会社に移転します。
このように、ファクタリングは「融資ではない」という位置づけから、短期借入金・長期借入金を使わず、売掛金や未収入金などを用いて仕訳を行うことが推奨されています。
国際財務報告基準(IFRS)との違い
国際財務報告基準(IFRS)では、売掛金を担保とした借入に近い取り扱いとなる場合があります。IFRSに関する解説では、売掛金をファクタリング会社に譲渡しても、リスクや経済的実質が移転していないと判断される場合、売掛金のオフバランス化が認められず、借入金として認識するとされています。
したがって、IFRS適用企業と日本基準適用企業では、同じファクタリング取引であっても、貸借対照表上の表示や負債計上の有無が異なる可能性があります。上場企業や国際的な取引を行う企業では、この点に特に注意が必要です。
ファクタリングで使う主な勘定科目
ファクタリングの会計処理では、取引の形態に応じて複数の勘定科目を使い分ける必要があります。ここでは、実務で使用される主要な勘定科目と、それぞれの使用場面を整理します。
基本となる勘定科目
多くの実務解説では、ファクタリングの会計処理で次のような勘定科目が使用されると整理されています。
- 売掛金:通常の売上債権の計上に使用
- 未収入金:売掛債権を譲渡した後の回収見込み分を計上
- 売上債権売却損:ファクタリング手数料や差額を費用として計上
- 支払手数料:保証型ファクタリングなどの保証料や手数料の計上に使用
これらの勘定科目は、取引の実態に応じて適切に使い分ける必要があります。
その他の関連勘定科目と代替処理
貸倒損失・雑収入は、保証型取引で債務不履行が起きた場合の損失計上や、保険金回収分の収益計上に使用される例があります。
一部の中小企業向け解説では、「売上債権売却損」の勘定科目が会計ソフトに登録されていない場合、「支払手数料」など代替の勘定科目を設定する運用も紹介されています。ただし、どの勘定科目を使用するかは企業ごとの会計方針や税理士の判断によって異なることがあり、継続的な運用が重視されています。
買取型ファクタリングの会計処理
買取型ファクタリングは、売掛債権をファクタリング会社に売却し、手数料を差し引いた金額を受け取る最も一般的な形態です。契約時と入金時の2段階で仕訳を行う方法が広く紹介されています。
契約時と入金時の仕訳
一般的な日本基準の解説では、買取型ファクタリングは「売掛債権の譲渡」と捉え、契約時に売掛金を未収入金に振り替え、入金時に差額を売上債権売却損として計上する仕訳例が示されています。
まず契約時に、売掛金を未収入金に振り替えます。次に入金時に、現金と売上債権売却損を計上し、未収入金を消去します。この2段階の処理により、手数料が費用として明確に認識されます。
税務上の取り扱いと注意点
ファクタリング手数料は、消費税の非課税取引として扱われるとの説明があり、税務上の損金算入が可能とされる点が特徴です。売上債権売却損は、営業外費用として損益計算書に計上されることが多く、税務申告においても損金として認められます。
売掛金の譲渡が貸借対照表のオフバランス化につながるため、金融機関など外部からの評価への影響を考慮する必要があるとする解説もあります。
保証型ファクタリングの会計処理
保証型ファクタリングは、売掛金自体は企業が保有したまま、取引先の倒産などによる回収不能リスクをファクタリング会社に移転するスキームです。買取型とは会計処理の考え方が大きく異なります。
保証料の処理方法
保証型ファクタリングでは、手数料(保証料)を「支払手数料」などの費用として処理する会計例が一般的に紹介されています。保証契約締結時に、支払手数料として保証料を計上します。この処理は、損害保険料の計上に近い考え方です。
売掛金の貸倒が実際に発生したときには、貸倒損失として損失を計上し、その後ファクタリング会社から保証金を受け取る際に、雑収入として処理する例が示されています。
買取型との会計上の違い
保証型では、売掛金のオフバランスは行われず、貸借対照表上に売掛金が残る点が、買取型ファクタリングとの大きな違いです。そのため、経営指標や金融機関からの信用評価への影響は、買取型に比べて限定的と考えられるケースがあります。
売上債権回転率などの財務指標は、保証型の利用では変化しません。ただし、保証料は継続的に発生するコストとなるため、損益計算書上の営業利益には影響を与えます。
2社間・3社間ファクタリングの仕訳
ファクタリングは、契約に関与する当事者の数によって2社間と3社間に分類されます。それぞれの会計処理には、売掛先からの入金の流れに応じた違いがあります。
2社間ファクタリングの特徴
2社間ファクタリングは、利用企業とファクタリング会社の2者で契約が完結し、売掛先(取引先)に通知されない形式です。会計処理の観点では、売掛金の発生時点の仕訳は通常の取引と同じです。
ファクタリング実行時に売掛金を未収入金に振り替え、入金時に現金と売上債権売却損を計上します。2社間では、売掛先からの入金を一旦利用企業が受け取り、その後ファクタリング会社に送金する必要があるため、入金管理が重要です。
3社間ファクタリングの仕訳
3社間ファクタリングは、売掛先も契約に関与し、売掛先がファクタリング会社に直接支払う形態です。手数料が安い傾向にあると紹介されています。
会計処理では、3社間の場合、売掛先からの入金とファクタリング会社への支払いに関する仕訳を省略できる場合があります。売掛先が直接ファクタリング会社に支払うため、利用企業は現金の受け取りと支払いの仕訳を行わずに済みます。
会計処理でよくあるミスと注意点
ファクタリングの会計処理では、いくつかの典型的なミスが指摘されています。これらを事前に把握しておくことで、適切な処理が可能になります。
勘定科目の誤用
中小企業向けの解説では、ファクタリングを「短期借入金」や「長期借入金」で処理してしまうミスが指摘されています。これは、ファクタリングが融資ではないという前提と整合しません。
また、買取型ファクタリングの手数料を「支払利息」として計上するなど、金融商品の利息と混同する処理も避けるべきとされています。ファクタリング手数料は、債権譲渡の対価であり、借入金の利息とは性質が異なります。
実態に合わない仕訳の問題
2社間・3社間の取引実態を無視して仕訳を簡略化し過ぎると、売掛金残高や預り金残高が実態と合わなくなるリスクがあります。特に2社間ファクタリングで、売掛先からの入金を適切に処理しないと、帳簿上の現金残高と実際の残高に差異が生じます。
税務面では、譲渡損益の認識時期や消費税の課税・非課税区分に注意が必要とされています。特に大口取引では、会計処理だけでなく税務上の取り扱いについても、税理士への相談が推奨されています。
自社に合った処理方法を選ぶポイント
ここまで見てきた事実を踏まえ、自社に適したファクタリングの会計処理を選ぶためのポイントを整理します。実務では、単に仕訳を覚えるだけでなく、自社の状況に応じた判断が求められます。
取引実態の丁寧な整理
ファクタリングの会計処理では、取引の実態(買取型か保証型か、2社間か3社間か、日本基準かIFRSか)を丁寧に整理したうえで、会計方針を決めるのが望ましいと考えられます。
特に中小企業や個人事業主の場合、会計ソフトの勘定科目に合わせて安易に処理するのではなく、顧問税理士と相談し、勘定科目の使い分けを事前に決めておくことで、決算や税務調査時の説明負担を減らせると考えられます。
経営指標への影響の把握
経営者の視点では、ファクタリングが貸借対照表と損益計算書にどう影響するかを把握し、銀行評価や資金繰り、節税効果も含めて総合的に判断することが重要と見られます。
買取型ファクタリングは、売掛金をオフバランス化するため、自己資本比率などの財務指標が改善する可能性があります。
クラウド会計ユーザーにとっては、標準の仕訳テンプレートを参考にしつつも、自社の取引パターンに合わせた勘定科目のカスタマイズを行うことで、日々の記帳と将来の融資審査の両方に対応しやすくなると考えられます。
まとめ
ファクタリングの会計処理は、取引の形態や適用する会計基準によって、使用する勘定科目や仕訳方法が異なります。買取型では「売上債権売却損」、保証型では「支払手数料」を用いるのが一般的ですが、企業ごとの会計方針によって選択肢があります。
重要なのは、取引の実態に即した処理を選び、継続的に同じ方法を適用することです。不明な点は税理士に相談し、適切な会計処理を確立することをお勧めします。
.png)
経営支援会社で資金繰り相談に関わった経験をもとに、経営改善や資金調達に関する記事を執筆。制度の解説や比較記事を得意とし、専門的な内容を“実務で使える知識”として整理するスタイルに定評がある。読者の疑問を想定した丁寧な解説を追求している。

