業種・事業別活用法

公共工事でも使える建設業ファクタリングとは?制度・注意点・活用事例を徹底解説

建設業、とりわけ公共工事を請け負う企業にとって、資金繰りは経営の安定性を左右する重要なテーマです。工事の受注から完成、検査、そして入金までには一定の期間があり、その間に発生する人件費や資材費、外注費などを立て替える必要があります。国土交通省の資料でも、建設業は完成工事未収入金が大きくなりやすい業種であることが示されており、売上計上と入金のタイミングに差が生じやすい構造であるとされています(国土交通省「建設産業の現状」各年版)。

こうした状況の中で、売掛債権を早期に資金化する手段として注目されているのがファクタリングです。しかし「公共工事の売掛金でも利用できるのか」「債権譲渡は認められるのか」といった疑問を持つ事業者も少なくありません。公共工事は契約形態や法令上の制約が関わるため、民間工事とは異なる視点が必要です。

本記事では、建設業の中でも公共工事に焦点を当て、ファクタリングの基本的な仕組みから制度上の位置づけ、活用時の注意点までを体系的に解説します。業種・事業別活用法の一つとして、建設業における現実的な資金調達手段を整理し、経営判断に役立つ視点を提供します。

公共工事と建設業の資金繰り構造

入金サイトが長期化しやすい背景

公共工事では、発注者が国や地方自治体となるケースが一般的です。契約に基づき工事を進め、完成検査を経て請負代金が支払われますが、実際の入金までには一定の期間が必要です。工事の規模が大きくなるほど、着工から完成までの期間も長くなり、資金の立替負担は増大します。

国や自治体の支払手続きは法令や予算執行のルールに基づいて行われるため、民間企業のように柔軟な支払対応が難しい場合があります。そのため、完成工事未収入金が膨らみやすく、キャッシュフロー管理の難易度が高いといえます。

公共工事特有の契約上の制約

公共工事では、契約書に債権譲渡禁止条項が設けられていることがあります。もっとも、近年は中小建設業者の資金調達円滑化を目的として、一定の条件下で債権譲渡を認める運用が広がっています。国土交通省は公共工事における債権譲渡制度の活用を推進しており、適切な手続を踏めば譲渡が可能とされています。

ただし、発注者の承諾が必要な場合や、譲渡先が限定される場合もあり、契約内容の確認が不可欠です。条項を十分に確認せずに進めると、契約違反となるおそれがあるため注意が必要です。

資金繰り改善の選択肢としての検討

公共工事を主力とする建設業者にとって、金融機関からの借入だけに頼らない資金調達の選択肢を持つことは、経営の安定性を高めるうえで有効と考えられます。売掛債権の早期資金化は、その一つの方法です。

まずは自社の工事代金の入金サイクルを把握し、どのタイミングで資金不足が生じやすいのかを分析することが、ファクタリング活用の前提となります。

建設業ファクタリングの基本的な仕組み

売掛債権を活用する資金化の流れ

ファクタリングとは、企業が保有する売掛債権を第三者に譲渡し、期日前に資金を受け取る仕組みです。融資とは異なり、借入ではなく債権の売却という形態をとります。そのため、一般的には負債として計上されない点が特徴とされています。

建設業の場合、完成工事未収入金や出来高に応じた請負代金債権が対象となることがあります。ただし、公共工事では発注者の承諾が必要なケースがあるため、通常の民間取引とは手続きが異なります。

二者間と三者間の違い

ファクタリングには、利用企業とファクタリング会社の二者間で行う方式と、発注者を含めた三者間で行う方式があります。公共工事においては、債権譲渡の承諾が求められることから、三者間方式が選択されることが多いとされています。

三者間方式では、発注者が債権譲渡を認識し、支払先をファクタリング会社に変更します。透明性が高い一方で、手続きに時間を要する場合があります。自社の資金ニーズと手続きの負担を比較し、適切な方式を選択することが重要です。

融資との違いを理解する重要性

金融機関からの融資は返済義務を伴いますが、ファクタリングは債権売却であるため、返済という概念は原則として存在しません。ただし、契約形態によっては償還請求権が付される場合もあり、その場合は実質的にリスクを負うことになります。

契約内容を十分に確認し、リスクの所在を理解したうえで利用することが、建設業における健全な活用につながります。

公共工事でファクタリングは可能か

制度上の位置づけと公的な動き

公共工事における債権譲渡については、国土交通省が中小・中堅建設企業の資金調達支援の観点から一定の枠組みを示しています。具体的には、発注者の承諾を前提に債権譲渡を認める運用が行われています。

この制度的背景から、公共工事の売掛債権であっても、条件を満たせばファクタリングの対象となり得ます。ただし、すべての案件で自動的に利用できるわけではありません。

発注者承諾の実務上のポイント

公共工事では、契約書に基づく手続きが重視されます。債権譲渡を行う場合、所定の申請書類や様式に従い、発注者の承諾を得る必要があります。自治体ごとに運用が異なる場合もあるため、事前確認が不可欠です。

また、譲渡先の要件が定められていることもあります。制度に沿った手続きを行うことで、トラブルを回避できます。

活用可否を判断するための視点

公共工事ファクタリングの可否は、契約条項、発注者の方針、債権の内容など複数の要素で決まります。まずは契約書を精査し、債権譲渡に関する条項を確認することが出発点です。

そのうえで、専門家や関係機関に相談しながら進めることが、安全な活用につながると考えられます。

建設業で活用が広がる理由

資材価格高騰と資金負担

近年、資材価格や人件費の上昇が建設業の経営に影響を与えています。総務省や国土交通省の統計でも、建設資材価格指数の変動が示されています。こうした外部環境の変化により、着工から入金までの間の資金負担はさらに重くなっています。

その結果、資金繰りの安定化を目的にファクタリングを検討する企業が増えているとされています。

銀行融資との併用ニーズ

建設業では、運転資金の確保のために金融機関からの借入を行うケースが一般的です。しかし、借入枠には限度があり、審査や担保の問題もあります。売掛債権を活用した資金化は、融資を補完する手段として位置づけられます。

資金調達手段を複線化することで、経営の柔軟性を高める効果が期待できます。

事業拡大局面での活用可能性

公共工事の受注が増加した場合、売上拡大と同時に立替資金も増加します。受注増が必ずしも資金余裕につながらない点は、建設業特有の課題です。

このような成長局面において、債権を活用して早期に資金を確保できれば、次の案件への投資や人員確保に充てることが可能になります。

公共工事ファクタリングの注意点

契約違反リスクの回避

最も重要なのは、契約条項に反しないことです。債権譲渡禁止条項がある場合、承諾なしに譲渡すれば契約違反となる可能性があります。必ず発注者との契約内容を確認し、必要な手続きを踏むことが求められます。

手数料と資金効率のバランス

ファクタリングには手数料が発生します。手数料率は契約条件や債権の信用度などにより異なりますが、資金調達コストとして無視できない要素です。調達スピードとコストのバランスを検討することが重要です。

長期的な資金戦略の中での位置づけ

ファクタリングは即効性のある手段ですが、恒常的な資金不足の解決策として安易に依存することは望ましくありません。自社の収支構造を見直し、適切な資金計画の一環として活用する姿勢が求められます。

公共工事ファクタリングの具体的な活用場面

着工直後の資金不足を補うケース

公共工事では、契約締結後すぐに着工することが一般的ですが、その時点ではまだ入金はありません。重機の手配や資材の先行発注、協力会社への支払いなど、初期段階でまとまった資金が必要になります。とくに建設業では外注比率が高い場合も多く、支払いサイトが短いケースでは資金繰りの緊張度が一気に高まります。

このような局面で、完成工事未収入金や出来高に応じた請負代金債権を活用できれば、銀行融資とは別のルートで資金を確保できます。公共工事ファクタリングは、受注拡大期における一時的な資金不足の緩和策として機能すると考えられます。

出来高払いと組み合わせた活用

公共工事では、工事の進捗に応じて出来高払いが行われることがあります。契約条件に基づき、一定割合の工事代金が段階的に支払われる仕組みです。こうした出来高部分の債権を対象とすることで、資金化のタイミングを前倒しできる可能性があります。

もっとも、出来高払いの債権が譲渡対象となるかは契約内容や発注者の運用によります。国や地方自治体の定める要領・通知に沿った手続きが求められるため、事前確認が不可欠です。

決算対策としての資金確保

建設業では、決算期前に資金残高を安定させたいというニーズもあります。金融機関との関係や財務指標の観点から、一定の現預金水準を確保することが重要になる場合があります。

売掛債権を期日前に現金化することで、資金ポジションを改善し、決算時の財務体質を整えるという活用も考えられます。ただし、継続的な利用はコスト増加につながる可能性があるため、単年度の資金計画と照らし合わせた判断が求められます。

導入までの流れと実務手続き

契約書の確認から始める準備

公共工事でファクタリングを検討する場合、最初に行うべきは契約書の確認です。債権譲渡禁止条項の有無、承諾手続きの方法、必要書類などを把握することが出発点となります。

国土交通省が示す債権譲渡に関する通知では、発注者の承諾を前提とした制度運用が整理されていますが、最終的な判断は個別契約によります。自社判断だけで進めず、発注機関へ事前相談する姿勢が重要です。

発注者との協議と承諾取得

三者間方式を採用する場合、発注者の承諾が必要です。申請書の提出、必要資料の提示など、所定の手続きを経て承諾が得られます。自治体によって様式やフローが異なることがあるため、担当部署への確認が欠かせません。

この段階で情報共有を丁寧に行うことは、信頼関係の維持にもつながります。公共工事は継続的な取引関係が前提となることが多いため、透明性を重視する姿勢が求められます。

契約締結と資金化までの期間

承諾取得後、ファクタリング契約を締結し、債権譲渡手続きが完了すれば資金が支払われます。資金化までの期間は、手続きの内容や確認事項の多寡によって変動します。現時点で公的な平均日数の統計は存在しませんが、余裕をもったスケジュール設計が望ましいと考えられます。

資金需要が差し迫っている場合ほど、事前準備の有無が結果を左右します。早めの情報収集と検討が重要です。

他の資金調達手段との比較

銀行融資との違いを整理する

銀行融資は金利負担を伴い、返済計画が必要です。一方、ファクタリングは債権売却であるため、一般的には返済という概念がありません。ただし、契約条件によっては償還請求権が付く場合もあるため、実質的なリスクは契約次第です。

融資は長期的な資金調達に向き、ファクタリングは短期的な資金化に適していると整理できます。用途や期間に応じて使い分ける視点が重要です。

公的支援制度との関係

建設業向けには、信用保証制度や各種補助制度が設けられています。中小企業庁や信用保証協会による保証制度は、融資を受けやすくする仕組みとして広く活用されています。

これらの制度とファクタリングは排他的な関係ではありません。状況に応じて併用することで、資金調達の幅を広げることが可能です。ただし、制度ごとの要件や制限を確認する必要があります。

コストと柔軟性のバランス

ファクタリングは迅速性や担保不要といった利点がある一方で、手数料が発生します。手数料率は契約内容や債権の信用力により異なり、現時点で公的な平均値は公表されていません。

短期的な資金ニーズに対しては有効でも、長期的に継続利用する場合はコスト負担が重くなる可能性があります。資金調達全体のポートフォリオの中で、適切な位置づけを検討することが求められます。

建設業が押さえるべきリスク管理

債権内容の正確な把握

公共工事の請負代金債権は、検査合格や出来高確認など、一定の条件を満たして初めて確定します。債権の成立時期や金額を正確に把握していないと、想定どおりに資金化できない場合があります。

契約書や仕様書、発注者とのやり取りを整理し、債権の状況を明確にしておくことが基本です。

信頼関係への配慮

公共工事は、入札や指名などを通じて継続的に発注が行われることが多く、発注者との関係性は極めて重要です。債権譲渡に関する手続きが不透明であれば、信頼低下につながる可能性も否定できません。

適切な説明と正式な承諾手続きを経ることで、不要な誤解を避けることができます。

中長期の経営戦略との整合性

資金繰り改善は重要ですが、それだけに注力すると本業の収益力改善が後回しになるおそれがあります。原価管理の徹底や工期短縮の工夫など、収支構造の改善と並行して検討することが大切です。

公共工事ファクタリングはあくまで手段の一つであり、経営戦略全体の中で位置づけることが望まれます。

まとめ

公共工事でも、一定の条件と手続きを満たせばファクタリングの活用は可能です。建設業は構造的に入金までの期間が長くなりやすく、完成工事未収入金が積み上がりやすい業種とされています。そのため、売掛債権を活用した資金化は、資金繰りの安定化に資する選択肢の一つとなり得ます。

もっとも、公共工事には契約上の制約や発注者承諾といった特有のルールがあります。制度を正しく理解し、契約内容を精査し、必要な手続きを丁寧に進めることが前提です。また、手数料やリスクを踏まえ、銀行融資や公的支援制度と比較しながら、自社にとって最適な資金調達方法を選択する視点が重要です。

業種・事業別活用法としての建設業ファクタリングは、短期的な資金ニーズへの対応だけでなく、事業拡大期や決算対策など、さまざまな局面で活用が検討できます。ただし、安易な依存は避け、あくまで経営全体のバランスを見据えた活用が望ましいと考えられます。

まずは自社の契約書や資金繰り表を見直し、どのタイミングで資金不足が発生しているのかを把握することから始めてみてください。そのうえで、公共工事ファクタリングという選択肢を冷静に検討することが、持続可能な経営につながる第一歩となります。

ABOUT ME
奥平宏成
経営支援会社で資金繰り相談に関わった経験をもとに、経営改善や資金調達に関する記事を執筆。制度の解説や比較記事を得意とし、専門的な内容を“実務で使える知識”として整理するスタイルに定評がある。読者の疑問を想定した丁寧な解説を追求している。