業種・事業別活用法

受託開発の資金繰りを改善するITファクタリング活用法と成功事例

受託開発を主軸とするIT企業やスタートアップにとって、安定した受注は成長の源泉である一方、資金繰りの不安は常につきまといます。特にシステム開発やアプリ開発などのプロジェクト型ビジネスでは、着手から納品、検収、入金まで数か月を要するケースも珍しくありません。その間も人件費や外注費、クラウド利用料などの固定費は発生し続けます。

中小企業庁が公表する「中小企業白書(2023年版)」によれば、中小企業の資金繰り悪化要因として最も多いのは「売上代金の回収遅延」です。特にBtoB取引では、支払サイトが60日から90日に設定されることも多く、受託開発企業にとってはキャッシュフローの谷が生じやすい構造になっています。

IT・スタートアップ分野では、優秀なエンジニアの確保や研究開発投資が競争力を左右します。しかし資金繰りが不安定な状態では、採用や設備投資をためらわざるを得ません。結果として、受注はあるのに資金不足で成長機会を逃すという事態も起こり得ます。

こうした課題を背景に、近年注目されているのがファクタリングです。売掛金を早期資金化することで、銀行融資とは異なる形で資金を確保できる仕組みとして、IT業界でも導入事例が増えています。経済産業省も売掛債権の活用を資金調達手段の一つとして位置付けており、制度上も認められた取引形態です。

本記事では、受託開発企業が抱えるキャッシュ課題を整理し、ITファクタリングの仕組みや活用事例、導入時の注意点までを詳しく解説します。業種・事業別活用法という観点から、IT・スタートアップ企業が安全かつ効果的に活用するための実践知をお届けします。


受託開発ビジネスの資金繰り構造

プロジェクト型収益モデルの特徴

受託開発の最大の特徴は、成果物納品後に売上が確定する点にあります。契約形態によっては月次請求が可能な場合もありますが、検収完了後に一括請求というケースも多く見られます。つまり、開発期間中は売上が計上されても、実際の入金は後になることが一般的です。

特にIT・スタートアップ分野では、エンジニアの人件費がコストの大部分を占めます。社会保険料や外注費も含めると、毎月安定した現金支出が発生します。そのため、受注残高が豊富であっても、資金繰りが逼迫するという逆説的な状況が生まれやすいのです。

支払サイトとキャッシュギャップの実態

商取引における支払サイトは、業界慣行として60日〜90日が一般的とされています。経済産業省の取引適正化に関する資料でも、長期サイト是正の必要性が指摘されていますが、現実には依然として長期化する傾向があります。

受託開発企業の場合、例えば3か月間の開発期間+検収後60日サイトとなれば、入金まで最大5か月程度かかることもあります。この期間の人件費や経費を自己資金で賄う必要があるため、急激な受注増加は資金不足を引き起こす可能性があります。

成長企業ほど直面する資金不足の壁

スタートアップ企業は、事業拡大の過程で受注規模が急増することがあります。しかし、売上拡大と資金繰りは必ずしも比例しません。むしろ、成長局面ほど先行投資が必要となり、キャッシュアウトが先行する構造になります。

このような構造を理解しないまま経営を進めると、「黒字倒産」という事態に陥るリスクも否定できません。受託開発というビジネスモデル自体が持つキャッシュギャップを前提に、資金調達手段を複線化しておくことが重要です。


ITファクタリングの基本仕組み

売掛債権を活用した資金調達とは

ファクタリングとは、保有している売掛債権を専門会社に売却し、入金期日前に資金化する仕組みです。民法上も債権譲渡は認められており、法的根拠のある取引形態です。

銀行融資と異なり、借入ではなく債権売買であるため、負債として計上されない点が特徴です。特にIT企業のように無形資産が中心で担保設定が難しい業種では、売掛金自体を資金化できる点が有効と考えられます。

二者間と三者間の違い

ファクタリングには、売掛先企業が関与する三者間方式と、関与しない二者間方式があります。三者間は手数料が比較的低い傾向にありますが、取引先への通知が必要となります。

一方、二者間方式は取引先に知られずに資金化できる反面、手数料が高めに設定される場合があります。受託開発企業では、取引関係への影響を懸念して二者間を選択するケースも見られます。

IT業界で広がる背景

IT・スタートアップ分野では、迅速な資金確保が競争力に直結します。新規プロジェクトへの投資や人材採用をタイムリーに行うためには、機動的な資金調達手段が求められます。

経済産業省も売掛債権の活用促進を掲げており、中小企業の資金調達多様化を推進しています。こうした政策的背景もあり、受託開発企業におけるファクタリング活用は今後も拡大すると考えられます。


受託開発企業における活用事例

大型案件受注時の資金確保

あるIT受託企業では、大手企業から大型システム開発案件を受注しました。しかし開発期間は4か月、入金は検収後60日という条件でした。毎月の人件費が増加する中で、運転資金の確保が課題となりました。

そこで売掛金の一部をファクタリングで資金化し、開発期間中のキャッシュ不足を回避しました。結果としてプロジェクトを滞りなく完遂し、次の案件受注につなげることができました。

スタートアップの急成長フェーズ

創業間もないスタートアップ企業では、急速に受注が増加しましたが、自己資金が十分ではありませんでした。銀行融資は実績不足により審査に時間を要する状況でした。

この企業は売掛債権を活用し、短期間で資金調達を実現しました。資金繰りを安定させることでエンジニア採用を進め、事業拡大を加速させました。

キャッシュフロー改善の効果

ファクタリング導入後、月次の資金繰り予測が安定し、経営判断の精度が向上したという声もあります。単なる資金不足対策ではなく、成長戦略の一環として活用する動きも広がっています。

ただし、手数料負担を考慮し、継続的利用ではなくスポット利用とするなど、計画的な運用が求められます。

導入時に押さえるべきリスクと注意点

手数料構造を正しく理解する

ファクタリングは迅速な資金化が可能である一方、手数料が発生します。手数料率は売掛先の信用力や契約形態、二者間・三者間の違いなどによって変動するとされています。公的に統一された料率基準は存在せず、各事業者の審査基準によって決定されるのが実情です。

受託開発企業の場合、取引先が上場企業や大企業であれば比較的低率となる傾向があるといわれています。ただし、契約書上の支払条件や検収条件が不明確な場合、評価が下がる可能性も否定できません。手数料を単なるコストとして捉えるのではなく、資金繰り安定化による機会損失回避と比較する視点が重要です。

契約内容と法的整合性の確認

債権譲渡は民法上認められていますが、契約書に譲渡禁止特約がある場合は注意が必要です。2020年の民法改正により、譲渡制限特約があっても原則として譲渡自体は有効とされていますが、取引関係への配慮は不可欠です。

また、債権の実在性や請求書の整合性が厳しく確認されます。IT受託開発では仕様変更や追加開発が発生しやすいため、契約書・発注書・検収書の整備が資金化可否を左右します。日頃から書類管理を徹底することが、スムーズな活用につながります。

依存しすぎない運用設計

ファクタリングはあくまで資金繰り改善の一手段です。継続的に利用すると手数料負担が累積し、利益率を圧迫する可能性があります。そのため、繁忙期や大型案件受注時など、限定的なタイミングで活用する設計が望ましいと考えられます。

資金繰り計画を月次で可視化し、必要額のみを資金化するなど、戦略的な利用が受託開発企業の健全な成長を支えます。


銀行融資との違いと併用戦略

借入と債権売却の構造差

銀行融資は負債として計上され、返済義務が生じます。一方、ファクタリングは債権売却であり、借入ではありません。信用情報への影響も原則としてありません。

ただし、実質的に資金調達である点に変わりはなく、過度な利用はキャッシュフロー構造を複雑化させる可能性があります。それぞれの特徴を理解したうえで使い分けることが重要です。

審査スピードと資金化までの時間

銀行融資は審査に時間を要する場合が多く、特にスタートアップでは実績不足が課題となります。これに対し、ファクタリングは売掛債権の信用力が中心となるため、比較的短期間で資金化が可能とされています。

緊急性が高い場面では有効ですが、計画的資金調達としては融資の方が金利面で有利な場合もあります。

ハイブリッド型資金戦略

受託開発企業では、長期的な設備投資や採用資金は融資で確保し、短期的な運転資金はファクタリングで補完するという組み合わせが現実的です。

複数手段を持つことで資金調達の選択肢が広がり、経営の安定性が向上します。単一手段に依存しない姿勢が、IT・スタートアップ企業の持続的成長を支えます。


IT・スタートアップ特有の活用ポイント

人材投資と資金回収の時間差

IT企業の競争力は人材にあります。優秀なエンジニアを確保するには、迅速な採用決定と安定した給与支払いが欠かせません。しかし売上入金が遅れると、採用を躊躇せざるを得ません。

ファクタリングによって入金サイクルを短縮することで、採用判断を前向きに行える環境が整います。

研究開発型ビジネスとの相性

新規サービス開発やSaaS事業を展開する企業では、初期投資が先行します。受託開発収益を早期に資金化することで、自社プロダクト開発への再投資が可能になります。

収益源を複線化する戦略の中で、キャッシュフローを安定させる役割を果たします。

取引先との関係維持

二者間方式を活用することで、取引先に影響を与えず資金化できる場合があります。ただし、透明性や信頼関係を損なわない配慮が必要です。

契約内容や取引慣行を踏まえ、適切な方式を選択することが重要です。


受託開発企業が今後取るべき資金戦略

資金繰りの見える化

まずは月次キャッシュフローの把握が出発点です。入金予定日と支出予定日を明確にし、資金不足が発生する時期を予測します。これにより、必要な資金調達額が具体化します。

契約条件の改善交渉

可能であれば、着手金や中間金の設定を交渉することも有効です。経済産業省も取引適正化を推進しており、支払条件の見直しは重要なテーマとなっています。

外部資金手段の複線化

融資、補助金、ファクタリングなど複数の手段を組み合わせることで、安定性が高まります。単発的な対応ではなく、戦略的に設計することが求められます。


まとめ

受託開発企業は、売上が順調でも資金繰りに苦しむ可能性を常に抱えています。支払サイトの長期化やプロジェクト型収益モデルという構造的要因が背景にあります。

IT・スタートアップ業界では、成長機会を逃さないためにも迅速な資金確保が不可欠です。ファクタリングは売掛債権を活用した合法的な資金調達手段として、有効な選択肢となり得ます。

ただし、手数料負担や契約条件の確認など、慎重な判断が求められます。銀行融資との併用や資金繰りの見える化を通じて、計画的に活用することが重要です。

受託開発というビジネスモデルを前提に、自社に最適な資金戦略を構築することが、持続的成長への鍵となります。資金調達を守りの手段ではなく、攻めの経営基盤として捉える視点が、これからのIT企業には求められています。

ABOUT ME
佐伯樹里
企業インタビューや業務改善の編集記事を多く手がけるライター。複数の中小企業の経理・総務支援に関わった経験から、現場視点での課題把握と改善提案の解説に強みを持つ。請求書管理、コスト最適化、資金繰りの基礎まで、幅広いテーマに対応可能。