企業が資金繰りを改善するための手段として注目されているファクタリング。その中でも「ノンリコース型」と「リコース型」の違いは、契約の安全性やコスト構造に直接関わる重要な要素です。どちらのタイプを選ぶかによって、資金調達後のリスク負担や、万が一の取引先倒産時の対応が大きく変わります。
日本におけるファクタリング市場はここ数年で急速に拡大し、中小企業を中心に活用が進んでいます。帝国データバンクの調査(2023年)によれば、国内企業の約15%が一度はファクタリングを検討した経験があるとされています。しかし、契約形態の違いを理解せずに選択してしまうケースも多く、結果として不利な契約条件を結んでしまうリスクが指摘されています。
この記事では、ノンリコース型とリコース型の特徴を徹底比較し、それぞれのメリット・デメリット、手数料相場、契約リスクを明確に整理します。さらに、どのような業種・資金状況の企業にどちらが向いているのかを実例を交えて解説します。最後には、判断に迷った際のチェックポイントも提示し、読者が自社に最適な選択を行えるよう導きます。
1. ファクタリングの基本構造と2つの契約タイプ
資金調達手段としてのファクタリングの位置づけ
ファクタリングとは、企業が保有する売掛債権をファクタリング会社に売却し、期日前に現金化する資金調達手段です。銀行融資と異なり、審査のスピードが早く、担保や保証人が不要である点が特徴とされています。特に資金繰りの安定化を重視する中小企業やスタートアップにとって有効な手段です。
ノンリコース型とリコース型の基本的な違い
ファクタリング契約には大きく分けて2種類があります。
1つ目の「ノンリコース型」は、売掛先(債務者)が倒産しても、売掛金の回収不能リスクをファクタリング会社が負担する契約形態です。
一方、「リコース型」は売掛先が支払不能になった場合、利用企業(債権譲渡側)がその損失を補填する義務を負う形式です。
企業が理解しておくべきリスクの所在
このリスクの所在こそが両者の最も重要な違いです。ノンリコース型は企業にとって安全性が高い一方、ファクタリング会社がリスクを負うため手数料が高く設定されがちです。リコース型は手数料が低い反面、万一のリスクは企業側に残ります。契約時にこのリスク分担を理解しておくことが、後のトラブル防止につながります。
2. ノンリコース型の特徴と仕組み
債権リスクを完全に移転できる仕組み
ノンリコース型ファクタリングでは、売掛金を譲渡した時点で債権リスクがファクタリング会社に完全に移転します。債務者が倒産しても、利用企業は返金義務を負いません。そのため、取引先の信用状態に不安がある場合でも、資金調達手段として活用できます。
手数料が高くなる理由
このリスク移転により、ファクタリング会社は高いリスクを引き受けることになります。その結果、一般的に手数料率は10〜20%程度と、リコース型よりも高めに設定される傾向があります。特に、債務者の信用力が低い場合や取引履歴が短い場合は、手数料がさらに上がることもあります。
活用が向いている企業と注意点
ノンリコース型は、リスクを最小限に抑えたい企業や、取引先の支払い能力に不安を感じているケースに適しています。ただし、契約内容を十分に理解せずに手数料の高さだけで判断すると、実質的な資金効率が下がる可能性があります。利用前には、複数のファクタリング会社から見積もりを取り、比較検討することが重要です。
3. リコース型の特徴と仕組み
リスクを企業側が負担する構造
リコース型ファクタリングは、売掛債権の譲渡後に売掛先が支払不能になった場合、利用企業が代わりに弁済責任を負う仕組みです。つまり、ファクタリング会社はリスクを負わないため、手数料を低く抑えることが可能です。手数料相場は3〜10%前後とされ、ノンリコース型に比べて安価です。
コストメリットと活用のしやすさ
リコース型は審査が柔軟であり、資金調達スピードも速い傾向にあります。短期間の運転資金を確保したい企業にとってはコスト効率が良く、リピート利用もしやすい点が評価されています。特に、安定した取引先を持つ企業では、リスクが限定的なため合理的な選択となることも多いです。
契約時の注意点とトラブル防止
ただし、契約条件を理解せずにリコース型を選択すると、債務者が支払不能になった際に大きな損失を被る恐れがあります。契約書には「遡求権(リコース条項)」が明記されている場合が多く、万一の返済義務を免れないケースが一般的です。利用前には必ず契約条文を精査し、返金義務の範囲を確認する必要があります。
4. ノンリコース型とリコース型のリスク比較
債権回収不能時の対応の違い
ノンリコース型では、売掛先の倒産や未払いが発生しても、ファクタリング会社が損失を負担します。一方でリコース型では、売掛先が支払えない場合に利用企業が弁済義務を負います。この違いにより、資金繰りの安定性に大きな差が生じます。
リスク分担と経営戦略の関係
企業の経営戦略に応じて、どちらを選ぶかが変わります。短期的なキャッシュフロー改善を重視する場合はリコース型が有効ですが、取引先リスクを完全に遮断したい場合はノンリコース型が適しています。特に、複数の取引先を持つ企業では、債権の多様化に合わせて契約形態を分ける戦略も考えられます。
実務上の判断基準
判断の際には、「債務者の信用力」「取引規模」「資金需要の緊急性」の3要素を総合的に評価することが重要です。信用調査会社の格付けや支払い履歴を確認し、リスクを定量的に把握することで、より適切な契約形態を選択できます。
5. 手数料の違いとその背景
手数料構造の基本原理
手数料は、リスク負担の度合いに応じて設定されます。ノンリコース型ではリスクが高いため、ファクタリング会社が「保険料」に近い性質のコストを上乗せします。リコース型ではその必要がないため、相対的に安価になります。
相場の実態と変動要因
国内主要ファクタリング業者の平均手数料(2024年時点)は、ノンリコース型で10〜20%、リコース型で3〜10%前後と報告されています(出典:日本信用情報機構調査)。ただし、債務者の信用度、取引履歴、請求金額、業種によって大きく変動します。
適正コストを見極めるポイント
見積もりを取る際は、「手数料率」だけでなく、「入金スピード」や「審査方法」などの条件も比較すべきです。手数料が低くても入金まで数週間かかる場合、資金繰り改善効果は薄れます。総コストとしての合理性を重視することが大切です。
6. 契約時に注意すべきポイント
契約書に潜むリスク条項
ファクタリング契約では、「償還請求権」「再譲渡禁止」「遅延損害金」などの条項が記載されています。特に、リコース型契約では返金義務の発生条件が細かく定義されているため、法務担当者のチェックが欠かせません。
違法な業者を見分ける方法
金融庁や消費者庁は、貸金業に該当する違法ファクタリング業者への注意喚起を行っています(2023年公表)。「2社間ファクタリング」と称しながら実態は高利貸しに近い業者もあるため、登録業者の確認が必要です。
契約前に行うべき実務的対策
契約時には、債権譲渡登記や通知義務の有無も確認します。特に2社間契約では、売掛先への通知が行われないケースが多く、トラブルを防ぐためには契約書の透明性が求められます。
7. 業種・取引規模による適性判断
業種別の傾向
建設業や医療業など、請求から入金までの期間が長い業種ではノンリコース型が好まれる傾向があります。一方で、商社や製造業など取引先の信用力が高い業種ではリコース型の利用が一般的です。
規模別の選択基準
中小企業では資金調達コストよりも安全性を優先する傾向があり、ノンリコース型の利用率が高いとされています。大企業やグループ企業では、自社与信を活かしリコース型でコストを抑える戦略をとるケースが多いです。
実務での最適化アプローチ
複数の債権をまとめてファクタリングする「一括譲渡」方式を利用すれば、手数料を抑えつつノンリコース型のリスク回避効果を享受できます。業種や取引特性に応じて組み合わせるのが理想です。
8. 実際の利用事例から見る選択の傾向
中小建設業のケース
取引先の倒産リスクを懸念してノンリコース型を導入した例では、年間数百万円規模の損失回避につながったケースが報告されています(日本商工会議所アンケート・2023年)。
製造業のケース
安定した大手企業との取引が中心の製造業では、低コストを優先しリコース型を活用。資金効率を高め、運転資金の回転率を改善した事例も多く見られます。
事例から学ぶ選択の方向性
結果的に「安全性重視ならノンリコース」「コスト重視ならリコース」という選択が最も合理的であることが実証されています。ただし、どちらが優れているかは業態や信用構造により異なります。
9. トラブルを避けるためのチェックリスト
- 契約書に「リコース条項」が明記されているか確認
- 売掛債権の譲渡登記が適切に行われているか確認
- 手数料以外の費用(事務手数料・送金手数料)を把握
- 会社が金融庁・日本貸金業協会に登録されているか確認
- 契約前に複数社の見積もりを取得
これらの項目を確認することで、トラブルや過剰コストを未然に防ぐことができます。
10. 導入を成功させるための戦略的活用法
ファクタリングを「一時的な資金調整」から「経営戦略」へ
単なる資金調達手段ではなく、売掛債権の流動化による財務戦略の一環として位置づけることで、ファクタリングはより高い効果を発揮します。
信用管理と連携させた運用
社内の与信管理体制と連携させることで、ノンリコース型・リコース型の選択を状況に応じて最適化できます。信用情報の分析を継続的に行うことで、長期的なリスク削減にもつながります。
中長期的な資金戦略への応用
ファクタリングを銀行融資や補助金と組み合わせることで、資金調達の多角化を実現できます。単一の方法に依存せず、柔軟なキャッシュマネジメント体制を構築することが望ましいとされています。
エピローグ
ノンリコース型とリコース型の違いは、単に「リスクを誰が負うか」だけでなく、企業の資金戦略全体に関わる重要な判断軸です。安全性を取るか、コストを取るか。その選択は企業の成長段階や取引先との関係性によって変わります。
重要なのは、どちらか一方を選ぶのではなく、自社のリスク許容度を明確にし、必要に応じて使い分ける柔軟な姿勢です。公的情報や信頼できる専門業者の支援を受けながら、経営資源を最大限に活用することが、持続的な資金循環を支える鍵となります。

