中小企業や個人事業主が資金繰りを改善するための手段として注目を集める「ファクタリング」。その中でも、「3社間ファクタリング」と「2社間ファクタリング」という2つの方式が存在します。
一見似た仕組みに見えますが、実際には関係者の数や契約手続き、信用リスク、資金化スピードなどに明確な違いがあります。特に、取引先(売掛先)に「通知」が行われるかどうかが大きなポイントとなります。
この記事では、ファクタリングを初めて利用する人でも理解できるように、3社間ファクタリングの基本構造と2社間方式との違いを比較表を交えて分かりやすく解説します。さらに、どのような業種・状況で3社間を選ぶべきか、利用時の注意点やメリット・デメリットも含めて丁寧に整理していきます。
この記事を読むことで、ファクタリングの基礎をしっかり理解し、自社にとって最も適した資金調達方法を判断できるようになるはずです。
1. 3社間ファクタリングの仕組みと基本構造
売掛金を軸とした3者間の関係性
3社間ファクタリングとは、**「売掛債権を売却して資金化する取引」**の一種であり、売掛先企業・利用者(売掛債権の保有者)・ファクタリング会社の3者が関わる契約形態を指します。
この方式では、利用者がファクタリング会社に売掛金を譲渡する際、売掛先企業にも通知・同意が行われる点が大きな特徴です。売掛先がその事実を正式に承認することで、債権の譲渡が法的に確定し、入金先がファクタリング会社へ変更されます。
つまり、売掛金を「誰が回収するか」という権利関係を明確にする仕組みであり、トラブル防止や信用性の担保に優れた構造を持っています。
契約手続きと資金化の流れ
契約の流れを整理すると、以下のようになります。
- 利用者(企業)が売掛債権をファクタリング会社に提示
- 売掛先に対して、債権譲渡の通知と承諾を取得
- ファクタリング会社が審査・契約を締結
- 売掛金の一定割合(概ね90〜95%程度)が前払いされる
- 売掛先が期日にファクタリング会社へ支払う
この流れによって、利用者は支払い期日を待たずに資金を得ることができます。
ただし、売掛先の承諾が得られないと契約が成立しないため、スピードよりも信用と透明性を重視する取引といえます。
信用リスクを低減できる仕組み
3社間方式では、売掛先がファクタリング会社への支払いを認めることで、取引の安全性が高まります。
債権回収のリスクが実質的に売掛先に帰属するため、ファクタリング会社は低い手数料でサービスを提供できる傾向にあります。
一方で、売掛先にファクタリングの利用が知られることを懸念する企業も多く、関係性への影響を慎重に判断する必要があります。
そのため、3社間ファクタリングは「取引先との信頼関係が確立している中堅〜大手企業」に適した資金調達手段と考えられます。
2. 2社間ファクタリングとの主な違い
売掛先を介さない資金調達の仕組み
2社間ファクタリングは、利用者とファクタリング会社の2者のみで契約が完結する方式です。売掛先に通知や同意を得る必要がないため、外部に知られずに資金化を行えるという特徴があります。
取引の流れとしては、ファクタリング会社が売掛債権を買い取り、支払い期日前に利用者へ代金を立て替えます。売掛金の回収は、期日になってから利用者が売掛先から入金を受け取り、その後ファクタリング会社に支払う形です。
このように、売掛先を巻き込まずに手続きできるため、スピード重視の資金調達手段として活用されるケースが多いといえます。
手数料・リスク・透明性の違い
3社間と2社間の最大の違いは、「リスクの所在」と「手数料率」にあります。
3社間の場合、売掛先が直接ファクタリング会社に支払うため、回収不能リスクは極めて低くなります。その結果、手数料率は一般的に1〜5%程度と比較的低めです。
一方で2社間方式では、ファクタリング会社が売掛先からの支払いを直接受け取れないため、債権回収のリスクを負う形となります。そのため、手数料率は10〜20%前後と高めに設定されるのが一般的です。
さらに、売掛先への通知がない分、法的効力の担保が弱くなり、トラブル発生時には立証負担が利用者側にかかる場合があります。
透明性とコストを重視するなら3社間方式、スピードと秘匿性を優先するなら2社間方式が適していると考えられます。
資金繰りニーズに応じた選択基準
両者の違いを理解した上で、自社の状況に合わせて使い分けることが重要です。
たとえば、継続的な取引関係があり、売掛先の理解を得られる場合は、信頼性の高い3社間方式が望ましいでしょう。
一方、緊急的な資金需要や、取引先に知られたくない事情がある場合は、2社間方式を検討する価値があります。
ただし、2社間方式を繰り返し利用すると、資金繰りの悪化が外部に推測されるリスクもあるため、長期的には3社間方式への移行を視野に入れる企業も少なくありません。
それぞれの方式のメリット・デメリットを踏まえ、単なるスピードだけでなく、**「信用・コスト・持続性」**の3軸で判断することが大切です。
3. 通知の有無がもたらす影響
債権譲渡通知が果たす法的役割
3社間ファクタリングの大きな特徴である「売掛先への通知」は、単なる形式的な手続きではなく、債権譲渡の効力を確定させるための重要な法的要件です。
民法第467条では、債権の譲渡は「債務者への通知または承諾」がなければ第三者に対抗できないと定められています。
つまり、通知や承諾が行われて初めて、売掛金が確実にファクタリング会社へ移転したことが法的に認められます。
この手続きにより、売掛金が二重譲渡されるリスクや、債務不履行時の責任範囲が不明確になる事態を防ぐことができます。
一方、2社間方式では通知が行われないため、法的な安全性がやや低く、万が一のトラブル時には契約書や取引履歴などで裏付けを示す必要が生じます。
通知による企業間関係への影響
通知が行われることで、売掛先は「この取引先がファクタリングを利用している」という事実を知ることになります。
この点を懸念し、利用をためらう企業も少なくありません。
特に、資金繰りに困っている印象を与えたくない場合や、長期的な取引関係を重視する場合には慎重な対応が求められます。
しかし、近年ではファクタリングの認知度が高まり、「適正な資金管理の一環」として受け止められるケースも増えています。
建設業や医療・介護報酬など、債権の性質上3社間ファクタリングが一般的な業種では、通知を行うことが自然な商慣習として受け入れられている傾向にあります。
信用と透明性を高める効果
通知を行うことで、ファクタリング会社は売掛先の支払い確実性を直接確認できます。
これは、ファクタリング取引全体の透明性を高めることにつながり、結果的に手数料の引き下げや審査の迅速化を実現する要因となります。
また、債権譲渡が正式に認められることで、ファクタリング会社にとってもリスクが低減し、安定した契約が可能になります。
利用者にとっても、売掛先との信頼関係を前提に透明性の高い資金調達ができるという点で、通知の実施は大きな意味を持ちます。
したがって、「通知=ネガティブ」と捉えるのではなく、信用力の証明手段として活用する姿勢が重要です。
4. 比較表で見る3社間と2社間の特徴
双方の特徴を整理する意義
ファクタリングを導入する際に最も重要なのは、「どちらの方式が自社の状況に適しているか」を見極めることです。
表面的にはどちらも「売掛金を資金化する仕組み」ですが、通知の有無・審査基準・費用構造・資金化スピードなど、多くの点で異なります。
以下の比較表では、3社間と2社間ファクタリングの主要な項目を整理しました。これにより、それぞれの特徴が一目で把握できます。
3社間と2社間ファクタリングの比較表
| 比較項目 | 3社間ファクタリング | 2社間ファクタリング |
|---|---|---|
| 契約当事者 | 利用者・売掛先・ファクタリング会社の3者 | 利用者・ファクタリング会社の2者 |
| 売掛先への通知 | あり(通知・承諾必須) | なし(非通知で実施可能) |
| 法的効力 | 強い(債権譲渡が公的に確定) | 弱い(債権譲渡の対抗要件なし) |
| 手数料率の目安 | 1〜5%程度 | 10〜20%程度 |
| 資金化スピード | 中程度(2〜7日程度) | 速い(最短即日対応も可能) |
| 審査の対象 | 売掛先企業の信用力 | 利用者企業の信用力 |
| 利用のしやすさ | 売掛先の承諾が必要なため手続きやや複雑 | 売掛先に知られずに利用可能 |
| 信用リスク | 低い(売掛先が直接支払う) | 高い(利用者経由で入金) |
| 向いている企業 | 取引先との信頼関係が強い中堅〜大手企業 | 急な資金繰りが必要な中小・個人事業主 |
| 主なデメリット | 売掛先に通知が必要・時間がかかる | 手数料が高い・法的リスクが残る |
(※手数料・期間の目安は、国内主要ファクタリング事業者の公開データをもとにした一般的な水準。個別の契約条件により異なります。)
比較から見える実務上のポイント
この表から分かるように、3社間ファクタリングは「安全性と信頼性」を重視する企業に適し、2社間は「スピードと秘匿性」を求める企業に向いています。
特に、公共機関や大手企業との取引が多い場合には、3社間の法的安定性が大きな利点となります。
一方で、売掛先の承諾を得るプロセスが長引くと資金調達のタイミングを逃す可能性もあるため、緊急時は2社間方式を一時的に併用するケースも見られます。
選択の際に重視すべき観点
ファクタリングの方式選定では、単に「手数料が安いから3社間」「早いから2社間」といった単純な基準ではなく、資金需要の性質・取引先との関係・将来的な資金計画を考慮することが重要です。
3社間方式は、長期的な資金戦略の中で安定したキャッシュフローを確保したい企業にとって信頼できる手段となります。
この比較表をもとに、自社の現状と照らし合わせて最適なファクタリング方式を選ぶことが、持続的な経営改善の第一歩といえるでしょう。
5. 3社間ファクタリングのメリット
高い信頼性と法的安定性を備えた仕組み
3社間ファクタリングの最大の強みは、法的に裏付けられた信頼性にあります。
売掛先が債権譲渡に正式に同意することで、契約が第三者に対しても有効となり、債権の二重譲渡や支払先の混乱といったトラブルを未然に防ぐことができます。
これは民法上の「対抗要件」を満たす取引であり、債権回収に関するリスクが極めて低いのが特徴です。
また、売掛先・ファクタリング会社・利用者の三者が契約内容を共有しているため、取引の透明性が高く、監査や会計上も明確な処理が可能です。
特に、決算書の信頼性を維持したい中堅企業や、金融機関との取引を継続したい法人にとっては、この透明性が大きなメリットとなります。
手数料の低さとコストパフォーマンス
3社間方式では、売掛先が直接ファクタリング会社に支払うため、ファクタリング会社側のリスクが限定的です。
その結果、手数料は一般的に1〜5%前後と、2社間方式と比べて大幅に低く抑えられます。
さらに、ファクタリング会社にとってリスクが小さい分、審査基準が明確であり、優良な取引先を持つ企業ほど有利な条件を提示される傾向があります。
コスト面での優位性に加え、安定したキャッシュフローを維持できるため、資金調達コストの最適化にもつながります。
特に、定期的な請求が発生する業種(例:医療報酬、介護報酬、建設請負など)では、3社間方式の利用が合理的といえます。
企業間の信用力向上につながる
3社間ファクタリングは、売掛先に通知・承諾を行う透明なプロセスを経るため、**「健全な資金管理を行っている企業」**としての印象を与えます。
また、債権譲渡の存在を明確化することにより、取引先・金融機関・税理士など第三者からの信用を得やすくなります。
一部の銀行では、3社間ファクタリングの利用履歴を「債務ではなく債権譲渡取引」として評価するケースもあり、財務上の健全性を損なわない点も利点です。
これにより、将来的な融資や信用保証の獲得においてもプラスに働く可能性があります。
資金調達を「緊急対応」ではなく「経営戦略の一部」として位置づける企業にとって、3社間方式は長期的な信頼構築に有効な選択肢といえるでしょう。
6. 3社間ファクタリングのデメリット
売掛先への通知・承諾が必要な手間と心理的ハードル
3社間ファクタリングで最も大きな課題は、売掛先の承諾が必要となる点です。
債権譲渡通知を送る際、売掛先が必ずしもスムーズに同意するとは限らず、場合によっては時間を要したり、追加書類を求められるケースもあります。
特に、長年の取引関係がある場合や、大手企業が売掛先となる場合には、法務部門の審査が入ることもあり、契約成立までに数週間を要することもあります。
また、企業によっては「ファクタリング=資金繰りに困っている」と誤解される懸念があり、通知そのものをためらう経営者も少なくありません。
このように、スピードよりも信頼性を優先する性質上、即時の資金化には不向きといえます。
手続きの複雑さと時間的コスト
3社間ファクタリングでは、契約に際して売掛先・利用者・ファクタリング会社の三者間で複数の書類を取り交わす必要があります。
主な書類としては、債権譲渡契約書、通知書、承諾書、売掛金明細、請求書、取引証明書などが挙げられます。
さらに、売掛先からの正式な承諾を得るまでの間に、社内決裁や稟議を経なければならないケースも多く、即日対応は難しいのが実情です。
一方、2社間方式ではこれらの手続きが簡略化されるため、スピード面では明らかに優位です。
このため、急な支払いに対応する短期資金調達を目的とする場合には、3社間方式では間に合わない可能性がある点に注意が必要です。
売掛先との関係性への影響
通知を行うことで、売掛先が「資金繰りの状況」に関心を持つことは避けられません。
信頼関係が強固であれば問題になりませんが、そうでない場合、将来的な取引条件の見直しや支払いサイトの変更といった影響が生じるおそれもあります。
また、売掛先がファクタリング制度に理解がない場合、手続きが進まず契約が成立しないこともあります。
こうしたリスクを回避するには、事前に売掛先との関係性を整理し、経営改善や資金管理の一環として利用することを説明できる体制を整えることが望ましいでしょう。
3社間ファクタリングは制度的には優れていますが、実務上の調整コストを考慮して導入を検討することが重要です。
7. 利用に適した業種とシーン
継続的な売掛取引が発生する業種に適する理由
3社間ファクタリングは、取引の信頼性と契約の安定性を重視する仕組みであるため、継続的に売掛金が発生する業種に特に向いています。
代表的なのは、建設業・製造業・医療・介護・ITサービス・物流など、長期契約や定期請求が一般的な業種です。
これらの業種では、売掛金の発生から入金までに一定のタイムラグがあるため、資金繰りを安定させる目的で3社間ファクタリングを活用する企業が多く見られます。
また、支払い元が官公庁や大手企業である場合、債権の信用力が高いため、低手数料・高査定での契約が成立しやすい点もメリットです。
公的報酬や請負型契約を扱う分野での有効性
医療報酬や介護報酬を扱う医療機関・介護事業者では、診療報酬支払い基金や国保連合会からの入金が月1回に限られるため、資金サイクルのずれが課題となります。
このような場合、3社間ファクタリングを活用することで、入金サイクルを早め、スタッフ給与や設備費の支払いを安定化させることができます。
同様に、建設業では元請・下請間の支払いサイトが長期化しやすく、特に公共工事や大規模案件では60日〜120日後の入金が一般的です。
こうした業種において、**3社間ファクタリングは「長期支払いリスクを緩和する制度的手段」**として機能します。
信用力を武器にした成長ステージでの活用
スタートアップや中小企業にとって、3社間ファクタリングは単なる資金調達手段にとどまりません。
売掛先に通知・承諾を行う過程で、取引の透明性や契約履歴を蓄積できるため、信用情報の形成にも役立ちます。
たとえば、定期的に3社間ファクタリングを活用し、安定した取引履歴を築くことで、銀行融資やリース契約の審査でプラス評価を得ることが可能です。
これは、**「借入ではなく債権管理能力の証明」**として見なされるからです。
このように、3社間ファクタリングは、成長過程にある企業が財務基盤を整え、次のステージに進むための信頼性強化ツールとしても有効といえます。
8. 契約までの流れと必要書類
3社間ファクタリングの手続きの全体像
3社間ファクタリングは、信頼性を担保するために明確な手続きフローが定められています。
取引の安全性を確保するため、売掛先・利用者・ファクタリング会社の三者が段階的に関与します。
以下は一般的な手続きの流れです。
- 事前相談・見積依頼
利用者がファクタリング会社に対して、売掛金の内容(取引先、金額、支払い期日など)を提示し、見積もりを依頼します。 - 書類提出と審査
利用者および売掛先の信用状況、取引履歴、売掛金の有効性などを確認する審査が行われます。 - 売掛先への通知・承諾取得
売掛先に対し、債権譲渡に関する通知書を送付し、正式な同意書(承諾書)を取り交わします。 - 契約締結・資金化
三者間で契約書を締結し、ファクタリング会社から利用者へ売掛金の一部(通常90〜95%)が前払いされます。 - 売掛先からファクタリング会社へ入金
支払い期日になった際、売掛先が直接ファクタリング会社に売掛金を支払い、取引が完了します。
このように、3社間ファクタリングは「通知」「承諾」「支払い」という3段階の確認を経ることで、法的・実務的な安定性を確保しています。
契約時に必要な主な書類
3社間ファクタリングの契約では、取引内容を明確にするための証憑類が多く求められます。
以下は一般的に提出を求められる主要書類の一覧です。
- 売掛金に関する書類:請求書、発注書、納品書、契約書、取引台帳
- 企業情報書類:登記簿謄本、印鑑証明書、決算書(直近2〜3期分)、代表者の身分証明書
- 売掛先関連書類:債権譲渡通知書、売掛先承諾書、支払い予定表
- その他必要に応じて:税務申告書、試算表、銀行口座情報
これらの書類は、債権の実在性と支払い確実性を確認するためのものです。
審査段階で不備があると手続きが遅れるため、事前に整備しておくことがスムーズな契約成立の鍵となります。
スムーズな契約を進めるためのポイント
3社間ファクタリングは、手続きが多い反面、事前準備を徹底すればスムーズに進行できます。
特に、売掛先との信頼関係を維持するために、通知前の説明と同意形成が重要です。
「資金繰りが厳しいから」ではなく、「事務効率化やキャッシュフロー改善のための取り組み」と説明することで、売掛先の理解を得やすくなります。
また、複数の売掛先に対して定期的に取引がある場合は、事前に包括契約を締結しておくと、都度承諾を取らずに利用できる場合もあります。
正確な書類管理と透明な説明が、3社間ファクタリング成功のカギといえるでしょう。
9. 審査で重視されるポイント
重点が置かれるのは「売掛先の信用力」
3社間ファクタリングの審査において最も重視されるのは、利用者ではなく売掛先の信用力です。
これは、最終的に売掛先がファクタリング会社に直接支払いを行うため、取引のリスクが売掛先の支払い能力に依存するからです。
具体的には、売掛先の業種・企業規模・財務状況・過去の支払い実績などが確認されます。
上場企業や公共団体、大手法人などが売掛先の場合、審査はスムーズに進みやすく、手数料率も低く抑えられる傾向にあります。
一方、設立間もない企業や支払い遅延の履歴がある場合は、譲渡承諾が得られないこともあり、慎重な判断が求められます。
売掛金の実在性と支払い確実性の確認
ファクタリング会社は、譲渡対象となる売掛金が実際に発生しており、かつ支払い見込みが高いかを詳細に確認します。
そのため、請求書・契約書・納品書などの証憑類が整っていることが前提となります。
特に、請負型や成果報酬型の契約では、納品完了や検収確認の証明が求められる場合があります。
また、取引内容に虚偽や不明点があると審査が通らないだけでなく、法的リスクを伴う可能性もあります。
このため、日常的に取引書類を整理し、取引履歴を正確に記録しておくことが、審査通過率を高める上で有効です。
利用企業の経営姿勢も評価対象
3社間ファクタリングでは売掛先の信用が中心とはいえ、利用企業(債権譲渡人)の経営状態も一定程度評価されます。
特に、取引の透明性や説明責任を果たす姿勢は、審査担当者に信頼を与える重要な要素です。
たとえば、決算書や試算表を適切に管理しているか、税務申告が正しく行われているか、資金繰り表を提示できるかなど、経営の基本が整っていることが評価されます。
また、ファクタリングを短期的な資金繰り補填ではなく、経営改善の一環として活用している姿勢を示すことで、より良い条件を引き出せる場合があります。
つまり、3社間ファクタリングは「信用で成り立つ取引」であり、書類や数字以上に、誠実な経営姿勢が審査の通過を左右するといえます。
10. 3社間方式を選ぶべきケースと注意点
安定的な取引関係を持つ企業に最適な方式
3社間ファクタリングは、売掛先との関係性が安定している企業に最も適した資金調達手段です。
取引先が大手企業や官公庁であり、支払い遅延のリスクが低い場合、3社間方式を選ぶことで手数料を抑えながら安定的な資金繰りを実現できます。
特に、毎月一定額の売掛金が発生する事業(例:介護報酬、医療機関、製造業、建設請負など)では、継続的な資金確保の仕組みとして有効です。
また、資金調達を借入に頼らずに行えるため、バランスシートを健全に保ちたい企業にも向いています。
銀行融資と併用してキャッシュフローを平準化するケースも多く、長期的な経営安定化を図る上で効果的です。
利用を避けたほうが良いケース
一方で、3社間方式はすべての企業に適しているわけではありません。
特に、以下のような状況では慎重な判断が求められます。
- 取引先に資金繰りを知られたくない場合
- 売掛先がファクタリングの仕組みを理解していない場合
- 緊急で資金を必要とする場合(承諾取得に時間がかかるため)
- 売掛金の発生が不定期または単発の取引が多い業種
これらに該当する場合は、2社間ファクタリングのほうが柔軟に対応できる可能性があります。
3社間方式はあくまで「信頼関係と透明性を前提とした契約」であるため、関係性の浅い取引先との間では成立が難しい場合もあります。
導入前に押さえるべき実務上の注意点
3社間ファクタリングをスムーズに導入するためには、次の3点を押さえることが重要です。
- 売掛先への説明責任を果たす
通知時に誤解を招かないよう、資金管理の効率化や経営健全化を目的とすることを丁寧に説明する。 - 法的効力を理解して契約する
債権譲渡契約は民法に基づく正式な取引であるため、内容を正確に理解し、弁護士や専門家の確認を得ることが望ましい。 - 中長期的な資金戦略を立てる
一時的な資金調達だけでなく、キャッシュフロー全体を見据えて利用計画を立てる。
これらを踏まえることで、3社間ファクタリングを「単なる資金化手段」から「経営安定の基盤」として活用できるようになります。
つまり、信頼・法的安定性・資金効率という3つの要素をバランスよく満たす点で、3社間方式は中長期的な経営に最も適した選択肢といえるでしょう。
最適なファクタリング方式を選ぶために
企業の資金繰りは、日々の経営判断に直結する最も重要な課題のひとつです。
その中でファクタリングは、借入に依存せず、保有する売掛金を活用して資金を調達できる柔軟な手段として広がりを見せています。
なかでも3社間ファクタリングは、法的にも実務的にも安定した仕組みであり、取引の透明性と信頼性を両立できる点で高く評価されています。
この記事を通じて見てきたように、3社間方式の最大の特徴は「売掛先の承諾を得て行う透明な資金取引」です。
確かに、通知の手間や時間的コストといった課題はありますが、それ以上に信用・安全性・コストパフォーマンスという3つのメリットを兼ね備えています。
特に、継続的な売掛取引があり、取引先との信頼関係を重視する企業にとっては、長期的な経営安定化のための有効な選択肢となるでしょう。
一方で、2社間ファクタリングには即時性や秘匿性といった強みがあり、急な資金需要への対応力では依然として優れています。
したがって、どちらの方式が優れているというよりも、自社の資金ニーズと経営環境に最も適した方式を選択することが肝要です。
短期的な資金補填には2社間方式、長期的な財務安定には3社間方式というように、目的に応じた使い分けが理想的です。
ファクタリングは、単なる資金調達のテクニックではなく、経営の健全性と成長戦略を支えるツールです。
制度を正しく理解し、信頼できる事業者と協働することで、資金繰りの不安を解消し、事業成長へとつなげることができます。
今後もファクタリング市場は拡大し、デジタル化による手続きの効率化や、AIを活用した審査の迅速化などが進むと予測されています。
その中で、自社に最適な仕組みを選び、戦略的に活用できる企業こそが、次の成長フェーズに進むことができると考えられます。

