公共事業や自治体委託業務を手がける中小企業にとって、資金繰りの安定化は重要な経営課題です。自治体との取引では支払いサイトが長期化するため、受注後の運転資金不足に悩む事業者が少なくありません。
本記事では、自治体案件における売掛債権のファクタリング活用法、助成金・補助金との併用方法、そして中小企業が利用できる公的支援制度について詳しく解説します。
ファクタリングの基本と仕組み
ファクタリングは、企業が保有する売掛金を早期に現金化できる調達方法です。銀行融資と異なり負債計上が不要なため、中小企業の資金管理を円滑にする手段として活用が広がっています。まずは、ファクタリングの基本的な仕組みと2つの契約方式について解説します。
ファクタリングの基本的な特徴
企業は自社の売掛金をファクタリング会社へ売却し、本来の入金日を待たずに資金を受け取ることができます。借入と違い返済義務が生じないため、貸借対照表の負債の部に記載されず、財務指標への悪影響を回避できます。
2020年4月施行の改正民法では、譲渡制限特約が付された債権についても譲渡を有効とする規定が設けられました。改正民法第466条第2項では、譲渡禁止特約が付されていても債権譲渡自体は常に有効とされ、中小企業の資金調達手段として利用しやすくなりました。
2社間ファクタリングと3社間ファクタリングの違い
2社間ファクタリングでは、利用者とファクタリング事業者の二者だけで手続きが完了します。売掛先企業への連絡や承認を得る必要がないため、経営状態を取引先に悟られずに現金を調達できます。申込から入金まで最短即日で完了するケースもあり、緊急の運転資金確保に有効な手段となります。
3社間ファクタリングは、利用企業、ファクタリング会社、そして売掛先企業の三者で契約を結ぶ方式です。売掛先の同意取得に日数を要するものの、2社間方式に比べて手数料率が大幅に低く設定されます。自治体が売掛先の場合は支払確実性が非常に高く評価されるため、3社間方式を利用すれば手数料率を最小限に抑えられます。
自治体向け債権の特徴とメリット
公的機関が支払元となる債権は、支払確実性が極めて高いことから、ファクタリング審査で優遇される傾向があります。行政機関の支払能力は極めて安定しているため、民間企業の債権に比べて低手数料・高買取率などの好条件を引き出せます。
自治体向け債権が優良債権とされる理由
行政機関では議会承認済みの予算から発注が行われるため、代金未払いのリスクが実質的に存在しません。支出は議決済み予算の範囲内で執行されるため、資金繰り悪化を原因とした遅延は構造的に生じにくくなっています。
自治体や政府機関は制度上倒産することがなく、債権の回収可能性は民間企業より圧倒的に高いと評価されます。夕張市など財政再生団体となった自治体でも、法令に基づく債務履行は継続されており、売掛債権の回収リスクは低いとされています。
予算執行プロセスが法令で定められているため、定められた期日に代金が支払われる確度が非常に高くなっています。
自治体向け債権のファクタリング条件
これらの理由から、自治体向け債権のファクタリングでは優遇条件が適用されるケースが多くあります。主なメリットは以下の通りです。
- 低手数料での取引が可能
- 額面に近い金額での買取が期待できる
- 売掛先の信用力が高いため審査時間を短縮できる
- 小口の債権も取扱対象となりやすい
入札参加資格制度により経営状況や法令遵守が審査済みであるため、事業者自体の信用力もプラス評価につながります。公共事業の受注実績は、ファクタリング会社による利用者評価においても好材料となります。
経済産業省による売掛債権活用の推進制度
経済産業省・中小企業庁は、不動産担保に依存しない資金調達の円滑化を図るため、売掛債権の活用を促進しています。ただし、公的保証制度と民間ファクタリングは仕組みが異なるため、混同しないよう注意が必要です。
売掛債権担保融資保証制度
中小企業庁は2001年に「売掛債権担保融資保証制度」を創設し、不動産以外の担保による融資環境を整備しました。この制度では、売掛債権を担保に金融機関から融資を受ける際、信用保証協会が債務保証を行います。
中小企業者が取引先企業や個人事業主に対して保有する売掛債権が、この制度の対象となります。これは融資に対する公的保証制度であり、債権譲渡による民間ファクタリングとは根本的に異なります。
あくまで融資の保証に用いられる制度であり、債権の早期現金化を目的とするファクタリングとは用途が異なります。
下請取引の適正化について
2025年に改正下請法が施行され、手形による支払の全面禁止など、下請事業者保護が強化されました。この改正は、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を実現し、下請事業者の経営安定化を図るものです。
改正法では、電子記録債権やファクタリングであっても、支払期日までに満額を受け取れないものは使用禁止とされています。
下請法では親事業者による不当な利用強制が禁止されており、ファクタリングはあくまで下請事業者の任意判断で活用されるものです。
助成金・補助金制度との併用方法
中小企業向けの助成金・補助金制度は複数ありますが、審査や事業実施期間を含めると、入金まで数ヶ月から半年以上かかることも珍しくありません。この空白期間の運転資金をファクタリングで補う活用法が、中小企業の間で広がっています。
主な助成金・補助金制度
中小企業が活用できる主な制度には、以下のようなものがあります。
- 小規模事業者持続化補助金:販路開拓や広報活動を支援
- 業務改善助成金:最低賃金引上げと生産性向上を支援
- 起業支援金:地域の社会課題解決を目的とした起業を支援
- 事業再構築補助金:ポストコロナ時代の新分野展開や事業転換を支援
- ものづくり補助金:革新的製品開発や生産プロセス改善を支援
各制度は支援対象や要件が異なるため、自社の事業計画や課題に合致する制度を見極めることが採択への近道となります。
ファクタリングとの併用時の注意点
助成金の申請から支給までの期間の運転資金をファクタリングで調達する活用方法があります。具体的には、助成金に申請し採択決定を受けた後、事業実施に必要な経費を先行支出する期間の運転資金をファクタリングで確保します。
ただし、資金使途の明確な区分管理が必要です。ファクタリングで調達した資金と助成金を混同せず、帳簿上で明確に区分しなければなりません。助成金は特定の事業目的に対して支給されるため、その使途を証明する書類の提出が求められます。
一般的に、ファクタリング手数料は助成金の対象経費として認められないケースが多いため、事前に確認することが重要です。補助事業によっては資金調達方法に制限がある場合があるため、申請前に実施要領を十分に確認しましょう。
ファクタリングのメリットとデメリット
ファクタリングは、利点と欠点の両面を持つ資金調達手段です。導入前にはメリット・デメリット双方を比較検討し、自社の状況に合うか見極めることが不可欠です。
ファクタリングの主なメリット
ファクタリングは、申込から入金まで最短即日、通常でも数営業日以内に完了するケースが多くあります。銀行融資では通常時間がかかるところ、申込当日に入金されるケースもあり、急な資金需要が発生した際の対応手段として有効です。
審査では売掛先の信用力が重視されるため、自社の財務状況に課題があっても利用できる可能性があります。赤字決算や創業間もない企業でも、売掛先の信用力が高ければ審査に通過できます。
借入金ではないため、自己資本比率を維持したまま資金繰りを改善できる点も特徴です。
ファクタリングの主なデメリット
債権譲渡取引であるため貸金業規制の対象外となり、手数料率に法律上の上限設定がありません。手数料を年利に換算すると銀行金利の数倍から数十倍となるケースもあり、コスト面では不利な調達手段といえます。
資金化できる上限は、自社が持つ売掛債権の額面までに制限されます。継続的に利用すれば累積手数料が膨らみ、入金額が減少し続けることで資金繰りが悪循環に陥る危険性があります。
金融庁は公式サイトで、高額な手数料設定が事業者の経営を圧迫するリスクについて注意を呼びかけています。債権譲渡取引には包括的な業法が整備されておらず、利用者を守る法的枠組みが融資に比べて不十分な状況です。
違法な取引条件を提示する悪質事業者も存在するため、契約前の十分な確認と比較検討が必須です。
利用時の重要な確認事項
ファクタリングを安全に利用するには、契約書の詳細な内容確認が必須となります。曖昧な条件設定や過剰な費用請求といったトラブルを避けるため、事前の入念なチェックが欠かせません。
契約前に確認すべきポイント
契約前に確認すべき主な項目は、以下の通りです。
- 手数料体系(総額・内訳・計算根拠の透明性)
- 実際の買取金額(額面に対する現金化率)
- 取引スキーム(2社間方式か3社間方式か)
- リスク負担(売掛先が倒産した場合の責任所在)
- 付帯コスト(登記費用・振込手数料・審査料など)
- 資金化までの期間(申込から着金までの日数)
契約書面で各項目を確認し、理解できない条項については署名前に必ず説明を求めることが大切です。
信頼できる業者の選び方
金融庁は公式サイトで、ファクタリングを偽装した違法貸付や法外な手数料設定に関する警告を発しています。
警戒すべき業者の特徴には、「相場を大きく超える手数料設定」「書面交付を拒み口頭説明のみで済ませようとする」「契約書の写しを利用者に渡さない」などがあります。
信頼性の高い業者を見極めるには、以下を総合的に判断することが重要です。
- 業界団体加盟の有無
- 運営会社の法人情報や代表者の開示状況
- 料金体系・取引条件の透明性
- 過去の取引実績や利用者評価
複数の事業者から相見積もりを取得し、手数料や条件を比較検討することで、適正な取引条件を見極められます。
まとめ
自治体向け債権を保有する中小企業にとって、ファクタリングは有効な資金調達手段の一つです。自治体債権は優良債権として評価され、有利な条件で利用できる可能性があります。
ただし、手数料負担が高額になるため、一時的なつなぎ資金として活用し、恒常的に依存しないことが重要です。経済産業省は売掛債権の流動化全般を推進していますが、公的制度と民間サービスは異なる枠組みです。
ファクタリングには業法規制がないため、契約内容を十分に確認し、信頼できる業者を選定することが不可欠です。複数の資金調達手段を組み合わせることで、より安定的な経営基盤を構築できます。

