「今月の支払いにあと数百万円足りない」という資金繰りの悩みを抱える中小企業の経営者は少なくありません。売掛金の入金より支払いが先に来るというミスマッチは、黒字でも資金不足に陥る典型的なパターンです。
本記事では、売掛金を早期に現金化できる「ファクタリング」の仕組みや手順、メリット・デメリット、注意点を専門用語をかみ砕いて解説します。
売掛金の現金化が必要になる場面とは
中小企業が資金繰りに苦しむ背景には、売掛金の回収サイクルと支払いサイクルのミスマッチがあります。特に建設業や運送業、IT受託開発業などでは、売掛サイトが長期化しやすく、手元資金が不足する場面が生じやすい傾向があります。
資金繰りが厳しくなる典型的なケース
売掛サイトが60日から90日と長い一方で、仕入れや外注費、人件費の支払いが30日以内というケースでは、黒字であっても手元資金が不足しやすい状況が生じます。
大型案件の受注や季節要因により仕入れ・外注費が先行する場合も、一時的な資金不足が発生しやすくなります。銀行融資の審査に時間がかかる場合や、既に借入残高が多く追加融資が難しい場合には、別の資金調達手段が必要となります。
黒字倒産のリスクを回避するために
売上は計上されているものの、入金が遅れることで支払いに必要な現金が不足する状況は、いわゆる「黒字倒産」のリスクを高めます。
このような事態を避けるためには、売掛金の入金サイクルと支払いサイクルのバランスを常に把握し、必要に応じて資金調達手段を確保しておくことが重要です。
売掛金を現金化する主な方法
売掛金の現金化には複数の方法があり、それぞれに特徴があります。自社の状況に応じて、最適な方法を選択することが重要です。
主な現金化手段の比較
売掛金を現金化する方法として、一般的に以下の手段が挙げられます。
- 売掛先に支払いサイトの短縮を交渉する
- 銀行融資(当座貸越や短期運転資金など)を利用する
- ビジネスローンやノンバンクの融資を利用する
- ファクタリング(売掛金買取サービス)を利用する
これらの中でも、ファクタリングは「売掛金を専門会社に売却して早期に現金化する方法」として説明されており、調達額の上限は売掛金の額面が目安になります。
各手段の特徴と選び方
銀行融資は将来の返済を前提とした負債であり、信用力や決算内容を重視した審査が行われます。審査には数週間を要することも珍しくありません。
一方、ファクタリングは売掛先の信用力を重視するため、自社の財務状況に不安がある場合でも利用できる可能性があります。必要なスピード、手数料や金利の負担、既存の借入状況などを総合的に判断して選択することが望ましいでしょう。
ファクタリングの基本的な仕組み
ファクタリングは、企業が保有する売掛債権を手数料を差し引いた上でファクタリング会社が買い取り、支払期日前に現金化できるサービスです。金融庁も、ファクタリングを「事業者が保有している売掛債権等を期日前に一定の手数料を徴収して買い取るサービス」と説明しています。
債権譲渡としての位置づけ
ファクタリングは、民法上の債権譲渡契約に基づく取引であり、貸金業法の適用を受けない取引として整理されています。
利用者は売掛金の請求書などをファクタリング会社に提示し、審査に通過すると、売掛金から手数料を差し引いた金額が先に入金されます。実際の売掛先からの支払いは後日に行われますが、その回収を誰が行うかは契約形態によって異なります。
手数料の考え方
手数料率は、売掛先の信用力や契約条件によって変動します。一般的に、2社間ファクタリングは売掛先への通知を行わないため未回収リスクが高く、手数料も高めに設定される傾向があります。
一方、3社間ファクタリングは売掛先が直接ファクタリング会社に支払うため、リスクが低く手数料も抑えられます。契約の実態が貸付と評価される場合には、貸金業法の規制対象となる可能性があるため、契約内容の確認が重要です。
金融庁も、形式だけでなく実態を重視して判断するよう注意喚起しています。手数料以外に、事務手数料や債権譲渡登記費用などが別途発生する場合もあるため、総額でのコストを把握することが大切です。
2社間・3社間ファクタリングの違い
日本のファクタリングは、大きく「2社間ファクタリング」と「3社間ファクタリング」に分けられます。それぞれの特徴を理解した上で、自社の状況に適した形態を選択することが重要です。
2社間ファクタリングの特徴
2社間ファクタリングは、利用者とファクタリング会社の2者で契約する形態です。売掛先には債権譲渡の通知を行わないため、売掛先との関係に配慮したい中小企業で利用されることが多いとされています。
売掛先に知られずに資金調達できる点が大きなメリットですが、手数料は3社間と比べて高めに設定される傾向があります。
3社間ファクタリングの特徴
3社間ファクタリングは、利用者・ファクタリング会社・売掛先企業の3者で契約する形態です。売掛先に債権譲渡の通知や承諾を行うことが特徴とされています。
売掛先がファクタリング会社に直接支払うため、未回収リスクが低く、手数料が抑えられる傾向があります。売掛先との関係が良好で、資金調達の事情を説明できる場合には、手数料負担を軽減できる可能性があります。
ファクタリングのメリットとデメリット
ファクタリングには、資金繰り改善に役立つ側面がある一方で、注意すべき点も存在します。両面を理解した上で利用を検討することが重要です。
主なメリット
ファクタリングのメリットとして、以下の点が挙げられます。
- 売掛金の支払期日前に資金を受け取れる
- 借入金のように負債が増えない
- 売掛先の信用力が重視されるため、自社の財務状況に不安がある場合でも利用しやすい
売掛金の売却による資金調達であるため、バランスシート上の負債を膨らませずに済みます。設立間もないスタートアップや、赤字決算の企業でも、売掛先の信用力次第で利用できる可能性があります。
注意すべきデメリット
一方で、デメリットとして以下の点が指摘されています。
- 手数料負担が発生し、受け取る金額は売掛金の額面より少なくなる
- 継続的に利用すると粗利を圧迫し、利益率が低下する可能性がある
- 契約条件の確認が重要
これらの特性から、「一時的な資金ショートを乗り切る手段」としては有効ですが、「恒常的な赤字体質の補填」には適さないと考えられています。
ファクタリング利用の流れと必要書類
ファクタリングを利用する際の基本的な流れと、準備すべき書類について解説します。実際の手続きは、ファクタリング会社によって異なる場合があります。
申込から入金までの流れ
一般的な2社間ファクタリングは、以下のステップで進められます。
- 申込・相談:売掛金の内容をファクタリング会社に提出
- 審査:売掛先企業の信用力や取引実績を確認
- 条件提示:買取可能額・手数料率・入金予定日などを提示
- 契約締結:条件に合意した上で、債権譲渡契約などを締結
- 入金:売掛金から手数料を差し引いた金額が入金
- 売掛先からの入金処理:自社が売掛金を受け取り、ファクタリング会社に支払う
審査は最短で即日、通常は1日から3日程度で完了するとされています。
準備すべき書類
必要書類としては、請求書や基本契約書、通帳コピー、決算書などが挙げられます。オンライン完結型のファクタリングサービスでは、書類のアップロードのみで手続きが完了する場合もあります。
ただし、審査の過程で追加書類の提出を求められることもあるため、あらかじめ準備しておくとスムーズです。具体的な書類や条件は各社で異なるため、利用を検討しているファクタリング会社に直接確認することが重要です。
偽装ファクタリングへの注意
金融庁や専門家は、ファクタリングをうたっていても実態は高金利の貸付と評価されるような「偽装ファクタリング」に注意するよう呼びかけています。契約内容を慎重に確認することが重要です。
偽装ファクタリングとは
金融庁は、形式上は債権譲渡契約でも、実態として貸付とみなされる場合には、貸金業法などの規制対象となる可能性があると注意喚起しています。
売掛金の実在性が乏しい取引を利用したスキームや、異常に高額な手数料を要求する業者が問題として取り上げられています。契約内容の確認を怠ると、結果的に資金繰りが一層悪化するリスクがあります。
悪質業者を見分けるポイント
以下のような条件がある場合は、慎重に検討すべきです。
- 手数料率や諸費用の内訳が不明瞭
- 契約書や重要事項説明書が書面で交付されない
- 債権の買戻し条項が含まれている
- 会社概要や所在地、運営実績が確認できない
正規のファクタリング会社は、契約内容を明確に説明し、書面で交付することが一般的です。最終的には、税理士などの専門家に相談しながら利用の是非を判断することが望ましいでしょう。
どのような企業に向いているか
ファクタリングによる売掛金の現金化は、特定の状況下で有効な選択肢となります。自社の状況を踏まえた上で、適切な判断を行うことが重要です。
利用に適しているケース
以下のような状況では、ファクタリングの利用を検討する価値があります。
- 売掛先の信用力は高いが、支払いサイトが長く資金繰りが厳しい中小企業
- 一時的な大型案件や季節要因で仕入れや外注費が先行しているが、売上自体は見込めている会社
- 銀行融資の実績が少なく、借入以外の手段を持っておきたいフリーランスやスタートアップ
こうしたケースでは、ファクタリングが資金繰りの改善に役立つ可能性があります。
慎重に検討すべきケース
一方で、慢性的な赤字やビジネスモデル上の構造的な問題を抱えている場合、ファクタリングは一時しのぎにしかならない可能性が高いと考えられます。
手数料負担が継続的に発生することで、さらに収益が圧迫される悪循環に陥るリスクがあります。こうしたケースでは、資金調達と同時に、収益構造やコスト構造の見直しが不可欠です。
まとめ
売掛金を現金化する方法として、ファクタリングは「借入ではない」「売掛先の信用力を活用できる」という点で、中小企業にとって有効な選択肢になり得ます。一方で、手数料負担や契約内容次第では資金繰りを悪化させるリスクもあるため、条件や信頼性を比較した上で検討することが重要です。
まず自社の資金繰りの課題を整理し、複数のファクタリング会社や他の資金調達手段を比較することが望ましいでしょう。必要に応じて、税理士や会計士などの専門家にも相談しながら、自社にとって最適な方法を検討してください。
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経営支援会社で資金繰り相談に関わった経験をもとに、経営改善や資金調達に関する記事を執筆。制度の解説や比較記事を得意とし、専門的な内容を“実務で使える知識”として整理するスタイルに定評がある。読者の疑問を想定した丁寧な解説を追求している。

